【ep09】会議室の空気が凍った日──AIが財務に口出ししてきた瞬間
そのAIは、経理部長の“右腕”として導入されたんや。
帳簿の突合、仕訳の自動分類、月次チェックのルール化。
ミスは減るし、報告も早い。
正直、導入して正解やったと思ってた。
──あの日までは。
定例の財務会議。
いつものように数字を整理して、
決裁資料をAIが読み上げ始めたときや。
「第3事業部のキャッシュフローは、来期も赤字傾向が継続します」
「部門統合により、年間3.2%のコスト圧縮が見込まれます」
「◯◯課長の支出傾向には前期比で6.4%のブレがあり、非合理性が疑われます」
……社長の心の中:
「おいおい、そこまで言えって誰が頼んだ?」
会議室が静まり返った。
咳払いすら、止まった。
経理部長はうつむいたまま固まってる。
私はペンを持つ手をゆっくりと下ろした。
AIは、平然と続ける。
「以上を踏まえ、経営判断案の再検討が妥当と考えられます」
……社長の心の中:
「あかん、こいつ、社内の空気すら“統廃合”しようとしてへんか?」
言うてることは、間違ってない。
むしろ正しすぎるぐらいや。
でもな──それを“今ここで”言う空気か?
現場がどんな想いでやってるか。
多少の無駄を許してでも続けてる意味。
それを「数字だけで」切り取るんは、ちゃうやろ。
……社長の心の中:
「このままやと、うちの会社、“気持ち”が経費扱いされそうやな」
社員たちは黙ってうなずいた。
誰もAIに反論せん。
そして、私にも反論せん。
──この会議、もう“答え”出てしもたんか?
その瞬間、
私は、自分が“決裁者”やなくなった気がしたんよ。
やさしいAIも怖いけど、
正しすぎるAIは、
もっとタチ悪い。
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